ポール・ルイス ハイドン・ベートーヴェン・ブラームス プロジェクト

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巨匠への道を歩むピアニスト
ポール・ルイス
ハイドン・ベートーヴェン・ブラームス プロジェクト 2017/2018/2019
HBB project オフィシャル・サイト

公演日程
Vol.2 :2018年11月20日(火)19:00 王子ホール
Vol.3 :2018年11月22日(木)19:00 王子ホール

 

ニュース

NEWS

2018.09.07
伊熊よし子氏(音楽ジャーナリスト)のエッセイ「ポール・ルイスが長年の夢をかなえるシリーズHBBプロジェクト」がアップされました。
2018.07.12
青澤隆明氏(音楽評論)のエッセイ「HBBプロジェクトVol.3の聴きどころ」がアップされました。
2018.06.28
青澤隆明氏(音楽評論)のエッセイ「HBBプロジェクトVol.2の聴きどころ」がアップされました。
2018.06.27
ポール・ルイス ハイドン・ベートーヴェン・ブラームスプロジェクト(HBBプロジェクト)の特設サイトを改訂しました。
2017.11.24
ポール・ルイスHBBプロジェクト関連ビデオ(YouTube)をメディアにアップしました。
2017.11.16
青澤隆明氏(音楽評論)のエッセイ「HBBプロジェクトVol.1の聴きどころ」がアップされました。
2017.11.09
池田卓夫氏(音楽ジャーナリスト)のエッセイ「一期一会を積み上げてゆくポール・ルイスのHBBプロジェクト」がアップされました。
2017.10.31
青澤隆明氏(音楽評論)のエッセイ「ハイドンーベートーヴェンーブラームス」がアップされました。
2017.10.23
青澤隆明氏のエッセイ「誰かを信じるということー ポール・ルイスのピアノを聴くとき 」をアップしました。
2017.10.12
HBBプロジェクト プレスリリースをアップしました。
2017.10.12
ポール・ルイス ハイドン・ベートーヴェン・ブラームスプロジェクト(HBBプロジェクト)の特設サイトをアップしました。
 

公演情報

CONCERT INFORMATION

王子ホール
HBBプロジェクト Vol.2

HBBプロジェクト 全4公演の概要


[2018年6月30日(土)10:00 発売]

日時:2018年11月20日(火)19:00
会場:銀座・王子ホール

全席指定 6,500円

■プログラム:
ベートーヴェン:11のバガテル 作品119
1.ト短調 2. ハ長調 3. ニ長調 4. イ長調 
5.ハ短調 6. ト長調 7. ハ長調 8. ハ長調
9. イ短調 10. イ長調 11. 変ロ長調 

ハイドン:ピアノ・ソナタ第49番 変ホ長調 作品66

ハイドン:ピアノ・ソナタ第32番ロ短調 作品14-6

ブラームス:4つの小品 作品119
1. 間奏曲 ロ短調 2. 間奏曲 ホ短調

■主催:王子ホール
[チケットのお問合せ]王子ホールチケットセンター 03-3567-9990

■チケットの予約
王子ホールチケットセンター 03-3567-9990
CNプレイガイド 0570-08-9990 http://www.cnplayguide.com/
ローソンチケット 0570-000-407 http://l-tike.com/
e+(イープラス) http://eplus.jp/oji/

王子ホール
HBBプロジェクト Vol.3

HBBプロジェクト 全4公演の概要


[2018年6月30日(土)10:00 発売]

日時:2018年11月22日(木)19:00
会場:銀座・王子ホール

全席指定 6,500円

■プログラム:
ブラームス:7つの幻想曲集 作品116
1.奇想曲 二短調 2. 間奏曲 イ短調 3. 奇想曲 ト短調
4.間奏曲 ホ長調 5. 間奏曲 ホ短調 6. 間奏曲 ホ長調
7.奇想曲 二短調 

ハイドン:ピアノ・ソナタ第20番 ハ短調 作品30-6

ベートーヴェン:7つのバガテル 作品33
1.変ホ長調 2. ハ長調 3. ヘ長調 4. イ長調
  4.ハ長調 6. ニ長調 7. 変イ長調

ハイドン:ピアノ・ソナタ第52番 変ホ長調 作品82

■主催:王子ホール
[チケットのお問合せ]王子ホールチケットセンター 03-3567-9990

■チケットの予約
王子ホールチケットセンター 03-3567-9990
CNプレイガイド 0570-08-9990 http://www.cnplayguide.com/
ローソンチケット 0570-000-407 http://l-tike.com/
e+(イープラス) http://eplus.jp/oji/

王子ホール
HBBプロジェクト Vol.1
[公演終了]

HBBプロジェクト 全4公演の概要


日時:2017年11月29日(水) 19:00
会場:銀座・王子ホール

全席指定 6,500円

■プログラム:
ハイドン:ピアノ・ソナタ第50番 ハ長調 作品79

ベートーヴェン:6つのバガテル 作品126
1. ト長調 2.ト短調 3. 変ホ長調 4. ロ短調 5.ト長調 6. 変ホ長調

ブラームス:6つの小品 作品118
1. 間奏曲 イ短調 2. 間奏曲 イ長調 3. バラードト短調
4. 間奏曲 ヘ短調 5. ロマンス ヘ長調 6. 間奏曲 変ホ短調

ハイドン:ピアノ・ソナタ第40番 ト長調 作品37-1

■主催:王子ホール
[チケットのお問合せ]王子ホールチケットセンター 03-3567-9990

■チケットの予約
王子ホールチケットセンター 03-3567-9990
CNプレイガイド 0570-08-9990 http://www.cnplayguide.com/
ローソンチケット 0570-000-407 http://l-tike.com/
e+(イープラス) http://eplus.jp/oji/
 

ハイドン・ベートーヴェン・ブラームス プロジェクトプログラムの概要

HBBプロジェクト Vol. 1[公演終了]
2017年11月29日(水) 王子ホール


ハイドン:ピアノ・ソナタ第50番 ハ長調 作品79

ベートーヴェン:6つのバガテル 作品126
1. ト長調 2.ト短調 3. 変ホ長調 4. ロ短調 5.ト長調 6. 変ホ長調

ブラームス:6つの小品 作品118
1. 間奏曲 イ短調 2. 間奏曲 イ長調 3. バラードト短調
4. 間奏曲 ヘ短調 5. ロマンス ヘ長調 6. 間奏曲 変ホ短調

ハイドン:ピアノ・ソナタ第40番 ト長調 作品37-1
HBBプロジェクト Vol. 2
2018年11月20日(火) 王子ホール


ベートーヴェン:11のバガテル 作品119
1. ト短調 2. ハ長調 3. ニ長調 4. イ長調 5. ハ短調 6. ト長調 7. ハ長調 8. ハ長調 9. イ短調 10. イ長調 11. 変ロ長調

ハイドン:ピアノ・ソナタ第49番 変ホ長調 作品66

ハイドン:ピアノ・ソナタ第32番ロ短調 作品14-6

ブラームス:4つの小品 作品119
1. 間奏曲 ロ短調 2. 間奏曲 ホ短調 3. 間奏曲 ハ長調 4. 狂詩曲 変ホ長調
HBBプロジェクト Vol. 3
2018年11月22日(木) 王子ホール


ブラームス:7つの幻想曲集 作品116
1. 奇想曲 二短調 2. 間奏曲 イ短調 3. 奇想曲 ト短調 4. 間奏曲 ホ長調 5. 間奏曲 ホ短調 6. 間奏曲 ホ長調 7.奇想曲 二短調

ハイドン: ピアノ・ソナタ第20番 ハ短調 作品30-6

ベートーヴェン: 7つのバガテル 作品33
1. 変ホ長調 2. ハ長調 3. ヘ長調 4. イ長調 5. ハ長調 6. ニ長調 7. 変イ長調

ハイドン:ピアノ・ソナタ第52番 変ホ長調 作品82
HBBプロジェクト Vol. 4
2019年10月 王子ホール


ハイドン:ピアノ・ソナタ第34番 ホ短調 作品42

ブラームス:3つの間奏曲 作品117
1. 変ホ長調 2. 変ロ短調 3. 嬰ハ短調

ベートーヴェン:ディアベッリ変奏曲 作品120
 

プロフィール

PROFILE

ポール・ルイス

© Jack Liebeck

「ベートーヴェンのソナタに関しては、往年の巨匠たちや現代のピアニストたちが数々の名録音を残しているが、その中から一つだけ全曲録音を推薦するとしたら、ルイス氏の比類ないレコーディングを選ぶだろう」

アンソニー・トマシーニ <ニューヨーク・タイムズ>

 この世代をリードする、国際的に名の知られたピアニストの一人。ロイヤル・フィルハーモニック協会のアーティスト・オブ・ザ・イヤー賞、サウスバンク・ショウのクラシック音楽賞、ディアパソン・ドール賞、2年連続のエディソン賞(オランダ)、第25回キジアーナ音楽院国際賞(イタリア)、ドイツ・シャルプラッテン賞、ライムライト賞(オーストラリア)、そして2008年のレコード・オヴ・ザ・イヤーを含む3つのグラモフォン賞ほか数々の賞を受賞。また2009年にはサウサンプトン大学より名誉博士号を授与されている。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲、ピアノ協奏曲全曲およびディアベリ変奏曲を取り上げた演奏会シリーズとハルモニア・ムンディによる録音は世界中から称賛されており、その集大成として、2010年にはBBCプロムスにおいてベートーヴェンのピアノ協奏曲全5曲を一挙演奏した初のピアニストとなった。2016年、大英帝国三等勲爵士CBEを授かる。

 これまでにシュヴァルツェンベルクのシューベルティアーデ、ラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ音楽祭、ラインガウ音楽祭など各地の音楽祭や名門ホールから招かれ、ロンドンのウィグモア・ホールでは既に50回以上の演奏会を行っている。また、コリン・デイヴィス、ベルナルド・ハイティンク、クリストフ・フォン・ドホナーニ、マーク・エルダー、チャールズ・マッケラス、ヴォルフガング・サヴァリッシュ、ダニエル・ハーディング、アンドリュー・デイヴィス、イジー・ビェロフラーヴェク、アンドリス・ネルソンス、エマニュエル・クリヴィヌ、アルミン・ジョルダンといった世界的な指揮者たちと共演。

 近年の演奏会としては、ロンドン響との欧米ツアー、ロイヤル・コンセルトヘボウ管、ロサンジェルス・フィル、シカゴ響、ロンドン・フィル、フィルハーモニア管、ボストン響、バイエルン放送響、オスロ・フィル、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管、チューリッヒ・トーンハレ管との共演、マーラー室内管とのスペイン・ツアー、オーストラリア室内管とのアメリカ・ツアーなどがあり、ソロではロンドンのロイヤル・フェスティヴァル・ホール、ベルリン・フィルハーモニー、ウィーン・コンツェルトハウス、東京の王子ホール、トッパンホール、シカゴのオーケストラ・ホール、アムステルダム・コンセルトヘボウ、チューリッヒ・トーンハレ、バーデン・バーデンのフェストシュピールハウス、そしてマドリッドのナショナル・オーディトリウムなどに登場している。

 2011年には、シューベルトがその生涯最後の6年間に作曲したピアノ作品全曲演奏を、2年にわたるプロジェクトとしてスタート。この演奏会は、ロンドン、ニューヨーク、シカゴ、東京、メルボルン、ロッテルダム、ボローニャ、フィレンツェ、シュヴァルツェンベルクのシューベルティアーデなどの世界の主要会場で行われる。

 チェタム音楽学校にてリスザルド・バクストに、またギルドホール音楽学校にてジョーン・ハヴィルに師事。その後アルフレード・ブレンデルの薫陶を受ける。演奏活動に加え、ノルウェーのチェリストで妻のビョルク・ルイスと共に、イギリスのバッキンガムシャーで毎年開催される室内音楽祭「ミッドサマー・ミュージック」とリーズ国際ピアノコンクールの芸術監督も務めている。

ポール・ルイス関連リンク

オフィシャル・ウェブサイトhttp://www.paullewispiano.co.uk/



■主なCD

シューベルト「ピアノ・ソナタ14番&19番」(2001年 harmonia mundi)
シューベルト「ピアノ・ソナタ20番&21番」(2002年 harmonia munia)
ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ全集 全4巻」(2005年~2008年harmonia mundi)
シューベルト「冬の旅:マーク・パドモア」(2009年 harmonia mundi)
ベートーヴェン「ピアノ協奏曲全5曲 イジー・ビェロフラーヴェク指揮BBC響」 (2010年harmonia mundi)
ベートーヴェン「ディアベリ変奏曲」(2010年 harmonia mundi)
シューベルト「冬の旅:マーク・パドモア」(2009年 harmonia mundi)
シューベルト「美しき水車小屋の娘:マーク・バドモア」(2010年 harmonia mundi)
シューベルト「白鳥の歌:マーク・パドモア」(2011年 harmonia mundi)
シューベルト「ピアノ・ソナタ17番、ピアノ・ソナタ18番 他」(2011年 harmonia mundi)
ムソルグスキー「展覧会の絵」シューマン「幻想曲」(2015年 harmonia mundi)
ブラームス「ピアノ協奏曲第1番 ダニエル・ハーディング指揮スウェーデン放送響」(2016年 harmonia mundi)
ハイドン「ピアノ・ソナタ第32番&40番&49番&50番」(2018年harmonia mundi)
 

チケット情報

TICKET INFORMATION

王子ホール
HBBプロジェクト Vol.2

[2018年6月30日(土)10:00 発売]

日時:2018年11月20日(火)19:00
会場:銀座・王子ホール

全席指定 6,500円

■プログラム:
ベートーヴェン:11のバガテル 作品119
1.ト短調 2. ハ長調 3. ニ長調 4. イ長調 
5.ハ短調 6. ト長調 7. ハ長調 8. ハ長調
9. イ短調 10. イ長調 11. 変ロ長調 

ハイドン:ピアノ・ソナタ第49番 変ホ長調 作品66

ハイドン:ピアノ・ソナタ第32番ロ短調 作品14-6

ブラームス:4つの小品 作品119
1. 間奏曲 ロ短調 2. 間奏曲 ホ短調


■主催:王子ホール
[チケットのお問合せ]王子ホールチケットセンター 03-3567-9990

■チケットの予約
王子ホールチケットセンター 03-3567-9990
CNプレイガイド 0570-08-9990 http://www.cnplayguide.com/
ローソンチケット 0570-000-407 http://l-tike.com/
e+(イープラス) http://eplus.jp/oji/

王子ホール
HBBプロジェクト Vol.3

[2018年6月30日(土)10:00 発売]

日時:2018年11月22日(木)19:00
会場:銀座・王子ホール

全席指定 6,500円

■プログラム:
ブラームス:7つの幻想曲集 作品116
1.奇想曲 二短調 2. 間奏曲 イ短調 3. 奇想曲 ト短調
4.間奏曲 ホ長調 5. 間奏曲 ホ短調 6. 間奏曲 ホ長調
7.奇想曲 二短調 

ハイドン:ピアノ・ソナタ第20番 ハ短調 作品30-6

ベートーヴェン:7つのバガテル 作品33
1.変ホ長調 2. ハ長調 3. ヘ長調 4. イ長調
4.ハ長調 6. ニ長調 7. 変イ長調

ハイドン:ピアノ・ソナタ第52番 変ホ長調 作品82

■主催:王子ホール
[チケットのお問合せ]王子ホールチケットセンター 03-3567-9990

■チケットの予約
王子ホールチケットセンター 03-3567-9990
CNプレイガイド 0570-08-9990 http://www.cnplayguide.com/
ローソンチケット 0570-000-407 http://l-tike.com/
e+(イープラス) http://eplus.jp/oji/
 

メディア

MEDIA















 

エッセイ&インタビュー

ESSAY & INTERVIEW

 

ポール・ルイスが長年の夢をかなえるシリーズHBB PROJECTは、
彼のこれまでのさまざまな活動が凝縮した濃密な内容が魅力

伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)

© igor.cat/Harmonia Mundi

 イギリスを中心に世界各地で活発な演奏活動を展開している実力派ピアニスト、ポール・ルイスは長期に渡ってひとりの作曲家の作品を集中的に演奏し、また全集録音を行うことを好むピアニストである。1993年にはアルフレート・ブレンデルと出会い、99年まで約6年間じっくり彼のもとで研鑽を積み、音楽のみならず多くのことを得た。ブレンデルといえばシューベルトを得意としていたことで知られるが、その恩師の流れを汲みながらも自身のシューベルトへの熱き思いを演奏に託し、2012年から翌年にかけて世界各地でシューベルト・チクルスを行った。

 「ブレンデルからはシューベルトの作品の奥に宿る精神性、深い感情、何を伝えたかったかということを学びました。彼は弟子に一緒に同じ方向性をもって物を考えることを要求し、音楽に対する深い理解を求められました。もっとも大切なのは作曲家の魂を再現すること。演奏家が前面に出る必要はまったくないという考えで、私もそれを忠実に守っています」

 ルイスは昔からシューベルトの歌曲にも惹かれてきた。演奏を始めたのは18歳のころ。ロンドンのギルドホール音楽学校に通う学生時代で、声楽科の学生と共演。以後、歌詞と音楽との融合を深く探求、数年前からは本格的に取り組み、テノールのマーク・パドモアと組んで「美しい水車小屋の娘」「冬の旅」などの録音に着手している。

 「パドモアは洞察力が深く、研究熱心。一緒に演奏していると自然に私は声をまねしてピアノをうたわせていることに気づく。彼の声がからだに入り込み、耳に居座る感じ。その音を自分のフィルターを通してピアノで歌を再現するわけです。その感覚がシューベルトのピアノ作品を弾くときに生かされ、自然なうたいまわしができるようになります」

 その言葉通り、ルイスのピアノはいずれの作品も情感豊かにうたい、語り、嘆き、悲しみ、その奥に潜む喜びや幸福も静かに浮き彫りにする。その演奏は聴き手の深い感動を呼び覚まし、作品へと近づける。まさに恩師ブレンデルの「作曲家を前面に、演奏家はその奥に」の精神を貫いている。彼は8歳からチェロを始めたが12歳でピアノに転向。「ピアノこそ自分の楽器」と明言、ピアノで歌を奏でている。
そんなルイスが2017年から19年にかけて取り組んでいるのは「HBB PROJECT」。ハイドン、ベートーヴェン、ブラームスの作品を組み合わせるプログラムある。

 「子どものころからハイドンの作品に魅せられています。ユーモア、驚き、サプライズがあり、人が声を出して笑えるような音楽。どうしてみんながハイドンを弾かないのか不思議なくらい。ずっとハイドンをメインに据えた演奏を行いたいと夢見ていましたが、あまりにも作品数が多いため絞り込んでプログラムを組むことにしました。ブラームスはハイドンとはまったく逆のキャラクターで、作品もシリアスで奥深い。その間に橋渡しの意味でベートーヴェンを挟み込むことにしました」

 ハイドンの話になると目の輝きが増し、知的で思慮深い彼が一気に雄弁になる。
「私のレパートリーの根幹を成すのはハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトですが、幼いころからブレンデルの演奏を聴いてきました。のちに師事するようになり、いまでも大きな影響を受けています。彼はピアニストではなく音楽家であれということを教えてくれた。人生の導き手でもあります。近年は、私の主宰する音楽祭に詩の朗読で参加してくれるんですよ」

 ルイスのハイドンは健康的で嬉々とし、ベートーヴェンは短編集を綴るよう。ブラームスは内省的で寂寥感が横溢。各作品の違いが浮き彫りになる一方、共通項も垣間見える。これは実力派ルイスの真価発揮となるシリーズで、さまざまな音楽活動で培ってきた要素が凝縮し、聴き手を作品へと近づける。ルイスのピアノは聴き終わると心身が浄化したような気分になる。これはピアニスト自身があくまでも作品の魂に肉薄し、その内奥を聴き手にまっすぐに届けてくれるからだろう。次回の「HBB PROJECT」も、3人の作曲家の奥深い魅力に酔えるひとときになるに違いない。

 

HBBプロジェクトvol.3(プログラムⅢ)の聴きどころ

青澤隆明(音楽評論)

© Josep Molina

 第2回の終わりを継いで、この回はブラームスの「7つのファンタジー」作品116で始まる。作品119から少しだけ年代を遡り、一連のピアノ小品集の始まりに立つ展望だ。20の小品連作の大半は1892年に書かれたが、ブラームスが得意のピアノに立ち返って作曲の筆を進め、「私の苦悩の子守歌」と呼んだ世界である。

 作品116は3つのカプリッチョと4つのインテルメッツォの7曲からなるが、全体には「ファンタジー集」という題が与えられている。カプリッチョ(プレスト・エネルジコ、ニ短調)、インテルメッツォ(アンダンテ、イ短調)、カプリッチョ(アレグロ・パッショナート、ト短調)と最初の3曲が短調をとり、続いて3曲のインテルメッツォがホ調をめぐって、アダージョ(ホ長調)、アンダンテ・コン・グラツィア・エド・インティミッシモ・センティメント(ホ短調)、アンダンティーノ・テネラメンテ(ホ長調)と続き、冒頭と同じニ短調のカプリッチョ(アレグロ・アジタート)が曲集をしめくくる。ポール・ルイスが成熟の年代に入るとともに親近感を深めてきたというブラームスの内心にどう迫るかが聴きものである。

 一世紀と少し遡って、ハイドンのハ短調ソナタHob.XVI:20が採り上げられるが、これは1771年に着手され、80年に「6つのクラヴィチェンバロまたはフォルテピアノのためのソナタ」作品30としてウィーンで出版された曲集の最後に置かれた作品。エステルハージ侯の楽長になり、意欲的な作曲に邁進したハイドンが、とくに短調作品で強い情感の表出をみせ、「疾風怒濤」とも称された作風をとった時期の作にあたる。ハ短調をとるこのソナタも力強い表出をもち、強弱の変化も、そうした劇的な表情を示す。[アレグロ・]モデラート(ハ短調)、アンダンテ・コン・モート(変イ長調)、アレグロ(ハ短調)の3楽章ともにソナタ形式をとる引き締まった作品。シンコペーションと装飾の活きた緩徐楽章の美しさ、フィナーレのピアニスティックな効果も際立っている。

 ベートーヴェンの「7つのバガテル」作品33は1802年に仕上げられ、どの曲も初期のピアノ・ソナタに通じる楽想をもっている。「つまらないもの」、「とるに足らないもの」といった意味合いの「バガテル」だが、これらの7曲にはもともとはソナタの楽章として構想されたものも含まれるかもしれない。それぞれが多様な曲調をとり、順にロココ風(変ホ長調)、無窮動的なスケルツォ(ハ長調)、ロンド風(ヘ長調)、複合3部形式のリート風(イ長調)、技巧的なロンド風(ハ長調)、「朗誦的な表現で」と示されるように成熟した内面の情感を宿すもの(ニ長調)、スケルツォ風のプレスト(変イ長調)と性格も異なる曲が織りなされていく。

 第3回の結びは、ハイドンの変ホ長調ソナタHob.XVI:52。ポール・ルイスが拠点とするロンドンで、1794年に作曲されたものとみられるソナタで、出版は98年のウィーン。つまり、ベートーヴェンの作品33とかなり時期も近づいている。独創はこの師弟の身上でもあるが、ハイドンはこのソナタで、変ホ長調(アレグロ)-ホ長調(アダージョ)-変ホ長調(プレスト)という大胆な調性関係をとり、第1楽章の展開部などでも大胆な和声感覚を打ち出している。ホ短調の中間部をもつ緩徐楽章に続くフィナーレは、4分の2拍子だが、小節数でいうとハイドンの鍵盤ソナタで最大の楽章。疾走感をもって機敏に駆け抜けるエンディングだ。次なるシリーズ最終回への期待が、なんとなく急いてくるような気もする。

 

HBBプロジェクト vol.2(プログラムⅡ)の聴きどころ

青澤隆明(音楽評論)

© Josep Molina

 それは、ハイドンで始まった。最初の曲は、ハ長調ソナタHob.XVI:50で、冗談のようにおどけた開幕だった。しかし、ポール・ルイスはこれ見よがしに聴衆に愛嬌を振りまくことをしない。透明な音で淡々と、直截に音を連ねていくだけ。音楽自体が人を食ったような素振りをみせる。

 2017年11月29日、王子ホールでの「HBBプロジェクト」の初回の話である。そこから、ベートーヴェン晩年の「6つのバガテル」に進むと、ポール・ルイスは凝縮された各曲の情趣を、ひとつの演劇世界のように巧緻に構成していった。ブラームスの作品118では、奏者の持ち味である率直な情感と構築的な知性のバランスが活きた。孤独な内省の深みから一転、ハイドンのト長調ソナタHob.XVI:40は無邪気に始まり、後半楽章を軽快に駆けぬけた。走りおえる結びにきて、奏者も一度だけ客席に顔を向け、自然と笑いを誘ったのだった。

 こうして三者が並ぶと、面白いことに、時おりそれぞれの天分が侵犯し合うようにも聞こえてくる。ある瞬間には、ベートーヴェンはハイドンよりもハイドンらしく、ブラームスはさらに頑固にベートーヴェン的で、ハイドンはブラームスよりも感情的である。極められた各自の個性だけでなく、相互の繋がりや多義的な脈絡がみえる。発見の愉悦に充ちた旅の始まりだった。

*

 さてこの秋には、プロジェクトが第2回、第3回と歩みを進めていく。面白いのは初回がハイドン-ベートーヴェン-ブラームス-ハイドンという円環だったのが、第2回はベートーヴェン-ハイドン-ハイドン-ブラームスという展開、第3回はブラームス始まりでハイドン-ベートーヴェン-ハイドンと往還する。個性や様式の違いと共通するところとが、くるくると回転するように、鮮やかに聴き手を惹きつけることになるのだろう。

 さて、第2回は前回の「6つのバガテル」作品126から何年か遡り、ベートーヴェンの「11のバガテル」作品119で始められる。作品126が連作を企図した曲集だったのに対して、こちらの11曲は旧作を集めてつくられ、1823年に出版された。最初の6曲が1822年に仕上げられたが、第5曲までは1804年以前の初期の作で、第6曲が1820年か21年に手がけられたもの。後の5曲は21年出版の『ウィーン・ピアノ教本』のためにその前年に作曲され、多様な性格と作品の短さも特徴的だ。曲集の成り立ちがそうあるだけに、さまざまな時期のベートーヴェンの作風が多彩に鏤められているのも魅力である。

 ハイドンは2つのソナタ、変ホ長調Hob.XVI:49とロ短調Hob.XVI:32が選ばれたが、こちらは前回披露した2曲とともに、ポール・ルイス念願のハイドン・アルバムに収められている。これがまた率直で明快ないい演奏なのだが、レコーディングは昨年の春と夏だから、またさらに進化と成熟を期した実演が聴けることが期待される。

 1790年に完成された変ホ長調ソナタは、ソナタ形式楽章の規模はハイドンの同分野では最大のもので、続く緩徐楽章の長大さも含めて、堂々とした作品に仕上げられている。冒頭楽章の3連符をもつ主題は後のベートーヴェンの「熱情ソナタ」や交響曲第5番を連想させる劇性を、しかし快活にとってみせる。カンタービレでの息の長い歌いかけも、「メヌエットのテンポで」と指示されたフィナーレの独創的なロンドも、ポール・ルイスならではのバランス感覚で息づくことだろう。

 続くロ短調ソナタも3楽章構成。1778年に出版された「6つのソナタ」作品14の終曲に置かれた作品で、76年以前の作曲とみられる。アレグロ・モデラートの冒頭楽章は、第2主題の半音階的な動きも際立つ。メヌエットはロ長調をとるが、トリオはロ短調で緊密な掘りの深さを示す。プレストのフィナーレは再びロ短調で、俊敏かつ劇的に走り抜ける。

 しめくくりは1893年に出版され、ブラームス最後のピアノ曲集となった「4つの作品」作品119。シンプルで凝縮されたブラームス孤高の境地が聴かれる。アダージョ(ロ短調)、アンダンティーノ・ウン・ポコ・アジタート(ホ短調)、グラツィオーソ・エ・ジョコーソ(ハ長調)の3曲のインテルメッツォに、アレグロ・リソルート(変ホ長調)のラプソディが続き、変ホ短調で結ばれる。クラーラ・シューマンは第1曲を「灰色の真珠――曇っているが、きわめて貴重である」と語ったが、ポール・ルイスは珠玉の連作にどのような光を当てるだろう。
 

HBBプロジェクトVol.1の聴きどころ

青澤隆明(音楽評論)

 プロジェクトの始まりは、ほんとうに冗談のような、または戯れのような幕開けだ。
 ド・ソ・ミ・と、上からぽつぽつと落下して始まる。すぐに左手が口をはさむ。まず p で出てきて、すぐに f でおうむ返し。ふざけた感じでもあり、こちらを確かめるようでもある。

 それがハイドンのハ長調ソナタHob.XVI50。この軽妙で、コミカルな、どこかしらトムとジェリーみたいな始まりが、シリーズの愉快な駆け出しだとすると、続くヘ短調のアダージョはしっとりとして、中間部はハ短調から始まって調性を不安定に歩んでいく。フィナーレはリズムも抑揚も独特で、ハイドンの機智と才気が弾む。
 少し先まわりになるが、ポール・ルイスの4回のプロジェクトを締めくくるのがベートーヴェン晩年の大曲「ディアベッリのワルツの主題による変奏曲」で、これも同じハ長調をとるという構成だ。「つまらない主題」からなんでも組み立ててしまうのが、ハイドンとベートーヴェンの師弟である。ふたりの違いはたくさんあるがユーモアのセンスもそうで、ハイドンは機転が利くが、どこか涼しい顔をして人を笑わす感じだ。かりに師譲りだとしてもベートーヴェンのほうはずっと肩肘が張っている。「面白いだろう?」の感じが、わりと押しつけがましい。相手が笑えば、得意げに自分も高笑いをするようなタイプだろう。さすがはロマン派の先達である。

 6つのバガテルop.126は、ハイドンの先のソナタから30年ほど後、ベートーヴェンの後期様式の本質が凝縮された小さな大宇宙というべき傑作だ。と同時に、ベートーヴェンらしく芝居がかったところのある音楽で、全体の構成もそう仕組まれている。最初の5曲が、緩-急-緩-急-緩と配置され、カンタービレとプレストの交替をみせるシンメトリーの真中にコラール的な第3曲が置かれている。エピローグのように置かれた第6曲は、華やかなプレストの後に、ウィーン風のワルツが続き、冒頭のプレストに回帰して幕切れする。

 ベートーヴェンの最後期作に続くのも、ブラームス晩年の6つのピアノ曲。彼が最後のピアノ作品群op.116~119に取り組むのは、遺書も準備した1891年の後、92年から翌年にかけてのことだ。もっとも親しんだピアノという楽器に託して、ブラームスという作曲家が到達した極点が、中声部に多く置かれた旋律とともに情感や内省における精神的な深みを顕わし、和声や技巧の面でも凝縮された果実を結んでいる。6つの小品op.118は1893年夏までに書き上げられて11月に出版、初演は翌年にロンドンで行われた。4つのインテルメッツォにバラードとロマンスを挿み、調性はイ短調-イ長調-ト短調-へ短調-ヘ長調-変ホ短調という構成。多彩に凝縮された6曲が、作曲家晩年の心境を切実に伝えてくる。

 ロマン派の孤独な内心の後は、よく知られたハイドンのト長調ソナタ。プログラム全体がシンメトリーをなすようだ。ブラームス曲の約一世紀前に書かれたこのソナタは、ハイドンの冴えわたる実験性が出た作品である。2楽章構成で、ソナタ形式を避けるように書かれている。第一楽章はロンドと変奏曲の混合された形式で、プレストの第2楽章は3部形式。強弱記号が豊かに記され、和声的にもぐっと大胆になってきた。
 こうして、形式的にも多様な創意をもつ作品たちが、プログラム全体をユニークに彩るわけだが、これはシリーズを通じての工夫だ。毎回が発見の多い、軽妙な愉悦と内心の深みに溢れたコンサートになるだろう。

 

一期一会を積み上げていくポール・ルイスのHBBプロジェクト

池田卓夫(音楽ジャーナリスト)

 英国の実力派ピアニスト、ポール・ルイスが2011年から2年がかりのシューベルト全曲プロジェクトを始めようとした矢先の3月11日、東日本大震災が起きた。日本では東京・銀座の王子ホールで4月から2013年2月までの間に5回のシリーズを計画していた。多くの外国アーティストがキャンセルするなか、ルイスは約束通り、東京に現れた。「日本人と同じ地球市民として、私も恐ろしい事態を共有している」といい、「(来日は)大した努力ではない」と逆に、日本側の労をねぎらった。

 オフステージも物静か、この世の本質を真剣に究めようとの眼差しは一貫する。シューベルトの絶望や孤独、死への恐怖と「かすかな希望」を激しい振幅で描き出したピアノ演奏には当初、拒絶反応を示す聴き手がいなかったわけではないが、最後の変ロ長調ソナタ(D.960)で「死を超越した天上の愛に満ちた世界」へと全員を誘い、大きな感動の輪で締めくくった。

 あれから4年。当時、「今後はブラームス、ハイドン、モーツァルトへ守備範囲を広げたい」と語っていた本人の言葉通り、ハイドン(H)のソナタとベートーヴェン(B)のバガテルや変奏曲、ブラームス(B)晩年の小品群を組み合わせた3年がかりの「HBB」プロジェクトが王子ホールで実現する。最近の録音を聴くと、持ち前の端正さに何ともいえないニュアンスの味わい、音の深みが増しており、純粋にピアノを聴く喜びの中に人生の様々な場面を想起させる巨匠芸へと一歩ずつ、接近しているのがわかる。鍵盤音楽のパイオニア、改革者、完成者とそれぞれに時代の使命を担った3人の作曲家の創作の軌跡も、鮮やかに浮かび上がるはずだ。

 

ハイドン-ベートーヴェン-ブラームス

青澤隆明(音楽評論)

 あなたはクラシック音楽を聴いて笑ったことがありますか? もちろん、ある、はずだけれど、それが最初の問いかけである。
 もうひとつは――、深刻さと絶望の果てにみたものはなにか? あるいは大胆な自由と劇的な情熱のさきにみるものは?
 これらだけだと、どちらも笑ってしまうか、あるいはともにシリアスにみえてしまうか、のどちらかである。ふたつを並べると、それだけでどちらもアイロニカルにみえかねない。
 両岸をちょうどよく見渡すには、どちらにも行くような、頑丈な橋が必要になってくる。

*

 さて、最初のほうの鮮やかな好例と言えば、まっさきに思い浮かぶのがハイドンの音楽である。リサイタルでソナタを聴いて、客席に笑いがこぼれるのは、それこそなかなかのものである。
 もうひとつのほうは、たとえばブラームスの後期の作品群だ。「小品集」と書きたくないのは、それが様式的に凝縮されてはいても、決して小さな世界などではないからである。
 どちらにもいたる橋は、といえば、ベートーヴェンの二重性だろう。
 こうして師のハイドンとのユーモア対決、彼を敬愛するがロマン主義の自由な道を超えていったブラームスとのドラマティックな対面がなされることになる。ポール・ルイスがふたつの極の緩衝帯として、しかも見事な連結部として、ベートーヴェンを招き入れたのは、おそらく正しい。「おそらく」と言ったのは、まだ各回の演奏を聴いていないからだけのことだ。

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 ポール・ルイスの名を世界的なものとしたベートーヴェン、そしてシューベルトのピアノ・ソナタとリートへの取り組みを経て、ポール・ルイスが向かうさきは、かくして歴史的にその前後を繋ぐ脈絡となった。
 まず、ハイドンのソナタは、彼がいずれ集中して演奏したいと思ってきたものだという。ブラームスと感情的な繋がりを深めるのは、音楽思考のことだけでなく、おそらくポール・ルイス自身の年代、言ってみれば人生の季節とも関わっているのではないだろうか。
 ブラームスは晩年の傑作作品集op.116からop.119に臨むわけだが、その4集が一作ずつ演奏されて、4つのリサイタル・プログラムを構成する。ハイドンは7つのソナタが選ばれ、第20番から第52番まで、つまり1770年代から90年代までの諸作が織りなされる。ベートーヴェンからはやはり晩年の「6つのバガテル」op.126と「ディアベッリのワルツの主題による変奏曲」op.130、そして中間の2回にはバガテルop.119とop.33が挿まれる。
 こうして編まれた4つのリサイタル・プログラムを、ポール・ルイスは2017年秋から冬、18年春から秋、その秋から冬、そしてその冬から19年春にかけて、世界各地で展開していく。驚きと笑いと、機智と自省と、そして孤独と絶望――そのすべてを超えて創造し続ける生きる意志が、それぞれにユニークなかたちをとって、また絶妙な組み合わせで、私たちを輝かしく照らすことだろう。軽妙さと進化の間で、揺らぐ人生の折々に注ぐ光のようにして――。
 

誰かを信じるということ
ポール・ルイスのピアノを聴くとき

青澤隆明(音楽評論)


 誰かと会ったり、話をしたりして、その人はほんとうのことを言っている、つまりは信頼に足る人間だというふうに感じる。あるいは、音楽や演奏を聴いて、同じようなことを思う。その根拠はいったい、どこにあるのだろう? 経験や相性といったことのほかに。

 ポール・ルイスのピアノは、私にとっては、どうあっても信用できる演奏である。彼のピアノはまっすぐに響くからだ。どこにも嘘をつかない。韜晦なところもなく、ギミックは用いない。

 なぜなら、第一に音楽が、作品との向き合いかたが、そして音楽への願望が、ポール・ルイスにとってはそうしたものだからだ。混ざり気のない率直さというのは、現代ではなかなか目や耳にすることも難しいが、彼の演奏は驚くほどにストレートである。シンプルであることに努めるのではなく、ただまっすぐに物事をみつめる。それに見合う生きかたを、たぶんする。実人生のことはよく知らないので「たぶん」と言ったが、きっと彼はそうしている。

 そのような演奏家がリヴァプールから出て、ロンドンに暮らし、アメリカを大きく熱狂させ、そして日本をたびたび訪れる。20歳からアルフレート・ブレンデルに師事したというが、ポール・ルイス自身のアプローチは、決して議論好きなものではない。しかしブレンデルが「急がず、じっくりと作品を勉強するように」と言ったのは、自らも遅咲きと言えるだけに、大きな励ましとなったことだろう。ポール・ルイスはフットボールにも熱中せず、ひたむきに、ひたすら音楽にクレイジーにやってきた。すべては愛するがゆえ、しかもまっすぐと愛するがゆえのことである。  

 だからこそ、ポール・ルイスのピアノを聴くときには、なんの躊躇いも偏見もなく、すっと彼の音に耳を澄ますことができる。それが十分に考えぬかれたうえでの表現であるにせよ、それでも節制の効いた演奏のなかで、ポール・ルイスがことさらに知性を浮き立たせることはない。直截に音楽に入っていけることが、聴き手に晴朗な見通しをもたらす。

 たしかにイギリス期待のピアニストで、いまや代表格のひとりとみなされるようになったのは事実だとしても、ポール・ルイスが多分にイギリスくさいピアニストかというと、私にはそうは思えない。彼は閉じられた世界からやってきたわけではない。日本人が島国というと自嘲的にも響きそうだが、いわゆる大英帝国の典型として誉れ高い、癖のあるアイロニーや閉塞的なユーモアは、彼の晴れやかな視界を塞ぐことはない。もったいぶった言いかたもしない。

 もっといえば、歴史ある都市が鬱々と溜め込んできた”くさみ”のようなものはないし、アングロ・サクソンの素朴な感触はあっても、おそらく訛りのようなものはあまりないだろう。さまざまな作品に則すわけだから、彼の場合、それは当然のことだ。

 いっぽうで良さと言えば、多くのピアニストが課題とするドイツ・オーストリアの音楽から、もちろんラテンやロシアの作品からも、よい感じに距離が置かれていることである。こうした適度な距離は、ポール・ルイスの構築の澄明感と、どこかで関係しているに違いない。もっとも、ロンドンで愛されたハイドンのユーモアに関しては、やはりどこか実感しやすいところもあるだろう。

 だからこそ、ポール・ルイスの演奏は、見晴らしよく開かれている。クラシックの熱心なリスナーでなくとも、ダイレクトに入っていける率直さがある。聴き手はまっすぐに、ボール・ルイスのピアノに耳を向ければいい。そして、彼がみるように、作品の世界をみつめていけばいいだけだ。構えも気取りもいらない。あとはポール・ルイスの真率さが、聴き手をストレートに作品のもとへと連れていくだろう。

 

HBBプロジェクト プレスリリース

HBBプロジェクトに寄せて
〜美しさ、真実、ユーモア〜

翻訳:後藤菜穂子(音楽ジャーナリスト:ロンドン在住)


© Harmonia Mundi Marco Borggreve

 おそらくヨーゼフ・ハイドンほど、音楽の持つ力、すなわち人々を驚かせ、魅了し、また喜びと笑いの涙を誘う力について深く理解していた作曲家はいないのではないだろうか。英国のピアニストのポール・ルイスは、今シーズンから来シーズンにかけてのリサイタル・シリーズでハイドンのピアノ・ソナタの名作を取り上げ、そのウィット、ユーモア、情緒および深遠さを探求する。

 彼は今後Harmonia Mundiレーベルから2枚のハイドン作品のアルバムを出す予定で、1枚目の録音はすでに済んでいる。新しいディスクは2018年のリリース予定で、これまでに数々の賞を受賞したベートーヴェンやシューベルトなどのディスコグラフィーに新しいレパートリーが加わる。

 今シーズンのルイスの世界各地でのリサイタルは、9月〜2月、3月〜6月という2つの時期に分かれており、彼がずっと演奏したいと思っていたハイドンのソナタの世界に没頭できる。この〈ハイドン・ベートーヴェン・ブラームス〉のリサイタル・シリーズは2シーズン続くが、2017/18年の主要な日程としては、ロンドンのロイヤル・フェスティヴァル・ホール(1月23日、6月5日)、エディンバラのクイーンズ・ホール(10月23日、3月19日)、ブリュッセルのフラジェ(10月5日、6月10日)東京の王子ホール(11月29日)、メルボルン・リサイタル・センター(12月4日)が挙げられる。

 そのほかにも、カーネギー・ホールのザンケル・ホール(11月15日)、パリのシャンゼリゼ劇場(1月21日)、レイキャビックのハルパ・コンサートホール(2月4日)、フィラデルフィアのペレルマン・シアター(5月10日)、シューベルティアーデ音楽祭(6月26日)などでもリサイタルを行なう。

 「一人の作曲家の作品に没入すればするほど、その多様性を発見できるのです」とルイスは語る。「今回の一連のプログラムは、ハイドン、ベートーヴェン、ブラームスという3人の作曲家の共通点およびつながりに焦点を当てたものですが、全体として一つの大きな作品のように感じられます。これらのコンサートを終える時には、ベートーヴェンやシューベルトのソナタ・ツィクルスを弾いた時と同じように、まだ始まったばかりなのにもう終わってしまった、と思うことでしょう。こうした偉大な作品のすばらしさは、作曲されて200年もたつのに今なお私たちは新しい面を発見し、またその音楽の人間的な面に共感できるということです。これらの作品は私たちにいろんな形で語りかけてくれますし、私たちが言葉にしづらいさまざまな感情や心理状態を表現してくれるのです。ある意味、それらの作品の美しさはいつまでも失われることはありません。現代のようなすべてが速く、うるさく、極端な時代においては、その美しさはむしろ高まると言えるかもしれません。今日のような混沌とした世の中において、私たちはこうした平穏さと美しさをより必要としているのです」

 ルイスがハイドンの音楽に惹かれた理由の一つは、滑稽さを愛する作曲家だからだと言う。「ハイドンの音楽は私たちを微笑ませてくれるだけではなく、声を出して笑わせてくれます。そのような作曲家は他にはなかなかいません。ベートーヴェンもユーモアは使いますが、彼は人をびっくりさせることで笑わせます。でもハイドンは後ろから忍び寄ってきて脇腹をくすぐるのです!モーツァルトも笑わせてくれますが、彼の場合は、私たちが彼はいったいどうやってこんなすばらしい音楽を作曲したのだろうと驚嘆しているのをどこかから見てにやりと笑っているような印象があります。

 ハイドンはいたずらっぽく私たちを驚かせるのであって、ベートーヴェンのように不機嫌だったり荒っぽかったりすることはありません。ハイドンの音楽には悪意はなく、つねに上機嫌で愛想がよいのです。現代のように極端なことが当たり前な時代においても、ハイドンの聴き手をびっくりさせたりからかったりする手法は斬新に感じられます。本当にすばらしく創意に満ちた音楽であり、このたび演奏および録音できることにわくわくしています」

 その上ハイドンの音楽には悲劇的な面も崇高な面もあり、その旋律書法の簡潔さもルイスにとっては大きな魅力だと話す。「ハイドンの音楽には無駄な音はひとつもありません。ですので、一つ一つの音の色合い、性格、そして意味合いがとても重要なのです。それはとりわけピアノ・ソナタの緩徐楽章において顕著で、彼が少ない音でこれほど深い表現ができるのは本当に驚異的です」

 今回の曲目は、1770年代中頃から1790年代中頃にかけて作曲されたソナタの中なら選ばれ、激情のロ短調のソナタ(Hob XVI/32)からとっぴなハ長調のソナタ(Hob XVI/50)まで多岐にわたっている。

 他方で、ルイスはブラームスに対しては、ハイドンほどすぐには惚れ込めず、ブラームスの音楽を愛するようになるには時間がかかったと語る。「音楽家でブラームスが苦手という人は私だけではないと思います。私は長いこと、ブラームスにおいては表現がその作曲技巧に閉じ込められており、彼の音楽は技巧がすべてだと思っていました。しかし私も40代になり、そのパラドックスがむしろ愛おしく思えるようになってきたのです」

 こうして次第にロマン主義的な極端さと精確な作曲技法を合わせ持ち、また抑えきれない表現と洗練された技巧という、相反する特色をもったブラームスの音楽に魅了されるようになったと言う。「ハイドンと同じく、ブラームスもたった一音で多くのことを表現することができます。ピアノ協奏曲第1番の冒頭の最初の低いD音について考えてみてください−−これはシューマンがライン川に投身自殺をした直後に書かれた作品なのです。またブラームスについても、ハイドン同様、書法の簡潔さが特色として挙げられると思います。とりわけ、彼の後期の作品−−間奏曲、幻想曲や作品118や119の小品集—の主題にはさまざまな思いが込められていると思います」

 最後にルイスは、ベートーヴェンを加えてプログラムを完成させることにした。今シーズンと来シーズンにかけて彼の3つの「バガテル集」を1つずつ取り上げ、さらに2019年の最後のプログラムは《ディアベッリ変奏曲》で締めくくる。「ベートーヴェンのバガテルは、まだハイドンが存命中だった頃に書かれた作品33から、最後のピアノ作品となった作品126まで幅広い時代にわたっています。今回のリサイタル・シリーズの関連でいえば、ベートーヴェンのこれらの作品はそれぞれのプログラムをくっつける「糊」の役割を果たしているといえます。ハイドンの奇抜さ、ユーモア、驚きともつながっていますし、他方で晩年のバガテルは、ブラームスの小品集を先取りしている感があります。そして《ディアベッリ変奏曲》にいたっては、山頂に立って、過去、現在、未来を見渡しているような音楽だといえるでしょう」

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