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イギリスの名テノール、マーク・パドモアと俊英ピアニスト、ポール・ルイスの
シューベルト歌曲演奏会
日本ツアー2014 オフィシャル・サイト
2014.12.4[木]19:00《美しき水車屋の娘》 銀座・王子ホール
2014.12.5[金]19:00《冬の旅》 銀座・王子ホール
2014.12.7[日]15:00《白鳥の歌》他 銀座・王子ホール
2014.12.8[月]19:00《冬の旅》 名古屋・電気文化会館
NEWS
CONCERT INFORMATION
PROFILE
Photo : Marco Borggreve
マーク・パドモア(テノール)
Mark Padmore: tenor
Photo : Josep Molina
ポール・ルイス(ピアノ)
Paul Lewis: piano
TICKET INFORMATION
王子ホール
[マーク・パドモア&ポール・ルイス]〜シューベルト三大歌曲集全曲演奏会 Ⅱ
シューベルト:歌曲集《冬の旅》 op.89 D.911全曲[完売]
2014年12月5日(金)19:00 銀座・王子ホール
全席指定7,000円
■チケットの予約
王子ホールチケットセンター:03-3567-9990
CNプレイガイド:0570-08-9990
ローソンチケット:0570-000-407 (Lコード:36194)
e+イープラス:(パソコン&ケータイ)
王子ホール
[マーク・パドモア&ポール・ルイス]〜シューベルト三大歌曲集全曲演奏会 Ⅲ
シューベルト:歌曲集《白鳥の歌》 D.957全曲 他[好評発売中]
2014年12月7日(日)15:00 銀座・王子ホール
全席指定7,000円
■チケットの予約
王子ホールチケットセンター:03-3567-9990
CNプレイガイド:0570-08-9990
ローソンチケット:0570-000-407 (Lコード:36194)
e+イープラス:(パソコン&ケータイ)
電気文化会館
マーク・パドモア(テノール) ポール・ルイス(ピアノ)
シューベルト:歌曲集《冬の旅》 D.911全曲[好評発売中]
2014年12月8日(月)15:00 名古屋・電気文化会館
全席指定 7,000円 学生3,500円(学生券は電気文化会館チケットセンターのみ取扱い)
■チケットの予約
電気文化会館チケットセンター:052-204-1133
チケットぴあ:0570-02-9999
愛知芸術文化センターPG:052-972-0430
ヤマハミュージックリテイリングPG:052-201-5152
MEDIA
■YouTube
■ディスコグラフィー
ESSAY & INTERVIEW
■ エッセイ
パドモアとルイス、出会いを刻み込んだシューベルト
木幡一誠(音楽ライター)
Photo:Marco Borggreve courtesy of harmonia mundi usa
もう十数年は前になるのだけど、フィリップ・ヘレヴェッヘの率いる古楽団体がバッハの受難曲を集中して取り上げていたシーズンに、そのメンバーと話を交わす機会を得たことがある。多くのメンバーが口をそろえて絶賛していたのは、エヴァンゲリスト(福音史家)を受け持つマーク・パドモアの素晴らしさだった。「彼が歌うレチタティーヴォの美しく雄弁なフレージングは、我々にとっても指標となる」という、ある器楽奏者の言葉は忘れられませんね。
その頃から現在に至るまで、パドモアが世を代表するエヴァンゲリスト歌手であることは論をまたない。最近の映像ソフトでいえば、サイモン・ラトル指揮のベルリン・フィルと共演したバッハの2つの受難曲がある。両作品にピーター・セラーズが施したセミ・ステージ版の演出は、特に「マタイ」において過激な“読み替え”を施しており、何と福音史家とイエス(こちらはクリスティアン・ゲアハーヘルが担当)を同一人物に見立てながら、お互いに自己注釈をつけ合うような形で受難の悲劇が進行していく。そこで入魂の歌唱を聴かせるパドモア。歌詞の意味を深く掘り下げたテクスト解釈と、ドラマティックでありながらも常に客観的な抑制の眼もきかせた演技者としての所作。それが奇跡的な同居を遂げた舞台姿が放つ、何という説得力!
それが彼のシューベルトにも見事にオーバーラップして映る。思えばテノール歌手の歴史において、“偉大なるエヴァンゲリストにしてシューベルト解釈者”と評すべき人物の系譜が確実に存在する。劇的ではあっても歌劇的に陥ってしまわないアプローチとヴォーカル・テクニックや、優れた福音史家役には不可欠なドイツ語を扱う技量(それが母国語か否かを問わず)の賜物でもあろうが、たとえば往年の大家でいえばエルンスト・ヘフリガーやペーター・シュライヤー。現役のベテランならクリストフ・プレガルディエン……。そこに名を連ねる中でも、パドモアが「三大歌曲集」のCD録音に示した境地は格別の高みに達していると思う。「美しき水車小屋の娘」における恋路の展開も、「冬の旅」を一貫する荒涼とした心象風景も、「白鳥の歌」でパノラマ風に描き出される、“魂のさすらい人”が最後に極めた精神世界も、彼の歌唱にかかれば、ある種の陶酔感と覚醒感が表裏一体をなす叙情性が、作品に対峙する表現者としての“弧”を突き詰めた厳しさを伴いながら僕たちの耳に迫ってくる。もう、それは恐ろしいまでに甘美にして痛切なひととき。
パートナーとしてポール・ルイスのピアノを得たことも功を奏した。恩師にあたる巨匠アルフレート・ブレンデルの衣鉢を継ぐ、当代きってのベートーヴェン弾きであり、シューベルト弾き。本質的には大変なテクニシャン。しかしそれを表に出さず、ピアニスティックな造形美が曲の核心部分をストレートにえぐる音楽として聴かせ通す。ちょうどパドモアとシューベルトのレコーディングに臨んでいた頃にインタビューする機会を得た際、ルイスはこう語ってくれた。
「同じ連作歌曲集でも、『美しき水車小屋の娘』は主人公と恋人をめぐるストーリーの流れがあります。それに対して『冬の旅』は第1曲で決定的な破局があり、続く曲はすべて主人公の心を写したポートレート。いわば旅先からの絵葉書みたいなもので、その孤独感がどんどん深まっていく。マークの見事な解釈に接するうち、こうした世界観の違いがピアノの書法にまで反映されていることも痛感しました。晩年にシューベルトが遺したソナタに匹敵する深みを感じます」
特に「冬の旅」では、版元の勝手な措置で変更が加えられた若干の曲の調性を、自筆譜に戻した形で演奏している点も見逃せまい。シューベルトが意図した調性の連続性やコントラスト(第24曲「辻音楽師」の出だしはショッキングにすら響く!)を重視するのも、パドモアとルイスのコンビらしい姿勢だ。
単なる歌手とピアニストのコラボレーションを超えた芸術家同士の出会いを刻み込んだシューベルト。その成果に実演で接する機会が、まもなくやってくる。楽しみでなりませんね。
絶望へと至るドラマ、
パドモアとルイスの《美しき水車屋の娘》
後藤菜穂子(音楽ライター:ロンドン在住)
セント・メアリー・マグダレン教会外観
英国を代表するリリック・テノールのマーク・パドモアは名手ポール・ルイスとすでに何年にもわたってコンビを組んできており、シューベルトの《三大歌曲集》のレコーディングも行っている。とはいえ、パドモアは日頃からいろんなピアニストと共演することで曲に対する解釈をつねに深めていくことを好む音楽家であり、今年6月のルイスとの《美しき水車屋の娘》はしばらくぶりの共演だったそうだ。良い意味で二人とも新鮮な気持ちで取り組めた、と演奏会のあとでパドモアは話してくれた。
今回の公演は、ポール・ルイスが毎年ロンドン郊外のラティマーという村の教会で主催している音楽祭「Midsummer Music」のオープニングを飾るものであった。これはポールとチェリストである妻のビョークが、地元に根ざした活動をしたいという思いから、2009年より始めた音楽祭である。スケールは小さいが、国際的なアーティストたちを招き、ふだんのコンサートではできない多彩な編成によるプログラミングを組み、演奏家たちにとっても聴衆にとっても魅力的な音楽祭となっている。
セント・メアリー・マグダレン教会内部
公演ではプログラム後半に《美しい水車屋の娘》が置かれたが、前半の曲目も充実していた。第一曲目は、奇しくもノルウェー人のトリオとなったヘニング・クラッゲルード(vn)、ラルス=アンダース・トムター(va)、ビョーク・ルイス(vc)がベートーヴェンの若々しい弦楽三重奏曲Op.9-3を演奏し、続いて珍しい編成ゆえにめったに演奏されないシューベルトの「秘曲」といってもよい《水の上の精霊の歌Gesang der Geister der Wassern》D714が演奏された。これはゲーテの格調高い想像力豊かな詩を、男声8声とヴァイオリンを除いた弦楽合奏(ここでは各パート一人ずつ)という編成のために作曲したもので、荘厳かつ深みのある響きが特徴である。《美しい水車屋の娘》の2年前に書かれた作品だが、そのスピリチュアルな内容は後期の作風をすでに予感させる。指揮者は置かず、第1テノールを歌ったパドモアがリードを取りつつも、全員でお互いに息を合わせながらアンサンブルを作り上げるという親密な形で演奏された。この曲はシューベルトをライフワークとするルイスが以前から取り上げたいと思っていて、今回ようやく実現したのだそうだ。
Photo:Marco Borggreve courtesy of harmonia mundi usa
さて、後半はいよいよパドモアとルイスによる《美しき水車屋の娘》。シューベルトの三大歌曲集のうち、《美しき水車屋の娘》(1823年)がもっとも抒情性に富み、各曲とも旋律美にあふれていることは疑問のないところだろう。その意味で、つい親しみやすいメロディーに聞き惚れがちだが、パドモアとルイスのコンビによる演奏は、そうした個々の曲の抒情性を超え、巧みなストーリーテリングによって連作としての物語性をくっきりと浮き彫りにしたものであった。聴き手としても、若くて一途で傷つきやすい主人公の心に入り込み、彼の喜び、揺れ動く心、失恋から絶望へと至るドラマをともにした。
とりわけパドモアの語り口は時に俳優のようでもあり、やはりシェイクスピアの国の歌手らしいアプローチだと感じた。いわゆるドイツの正統的なリート解釈とは異なるかもしれないが、アプローチの違いこそあれ、シューベルトの音楽の核心に迫る名演であった。
実はパドモアが2008年に初めてウィグモア・ホールで、シューベルトの三大歌曲集をチクルスとして歌った時の《美しき水車屋の娘》を覚えているが(ピアノはティル・フェルナー)、その時は感情表現に力が入ると声を張り上げすぎる傾向があったのを覚えている。しかしそれから6年、先日インタビューでも「今の自分は表現したいことを実現するための声の技術は身に付いたと思うので、むしろいかに声のことを気にしないで、言葉を表現できるかを追求していきたい」と語っていたとおり、今の彼の声はより高音に伸びがあり、声に負担をかけずにあらゆる言葉の陰影を表現する技術を持っている(それはこの夏のベルリン・フィルとの《マタイ受難曲》のエヴァンゲリスト役でも顕著であった)。
Photo:Marco Borggreve courtesy of harmonia mundi usa