Lied Recital Schubert マーク・パドモア|ポール・ルイス

Welcome
イギリスの名テノール、マーク・パドモアと俊英ピアニスト、ポール・ルイスの
シューベルト歌曲演奏会
日本ツアー2014 オフィシャル・サイト

2014.12.4[木]19:00《美しき水車屋の娘》 銀座・王子ホール
2014.12.5[金]19:00《冬の旅》 銀座・王子ホール
2014.12.7[日]15:00《白鳥の歌》他 銀座・王子ホール
2014.12.8[月]19:00《冬の旅》 名古屋・電気文化会館


 

ニュース

NEWS

2014.11.18
木幡一誠さん(音楽ライター)のエッセイ「パドモアとルイス、出会いを刻み込んだシューベルト」がアップされました。
2014.10.29
パドモア&ルイスのシューベルトのディスコグラフィーをアップしました。
2014.10.21
ロンドン在住の音楽ライター、後藤菜穂子さんのエッセイ「絶望へのドラマ、パドモアとルイスの《美しき水車屋の娘》」がアップされました。
2014.10.21
マーク・パドモア&ポール・ルイス シューベルト歌曲演奏会日本ツアー2014の特設サイトをアップしました。
 

公演情報

CONCERT INFORMATION

王子ホール
[マーク・パドモア&ポール・ルイス]~シューベルト三大歌曲集全曲演奏会 Ⅰ

シューベルト:歌曲集《美しき水車屋の娘》op.25 D.795全曲 [好評発売中]
2014年12月4日(木)19:00 銀座・王子ホール
全席指定7,000円

主催|王子ホール
[チケットのお問合せ]王子ホールチケットセンター 03-3567-9990

■チケットの予約
王子ホールチケットセンター 03-3567-9990
CNプレイガイド 0570-08-9990
ローソンチケット 0570-000-407 (Lコード:36194)
e+(イープラス)
王子ホール
[マーク・パドモア&ポール・ルイス]~シューベルト三大歌曲集全曲演奏会 Ⅱ

シューベルト:歌曲集《冬の旅》op.89 D.911全曲 [完売]
2014年12月5日(金)19:00 銀座・王子ホール
全席指定7,000円

主催|王子ホール
[チケットのお問合せ]王子ホールチケットセンター 03-3567-9990

■チケットの予約
王子ホールチケットセンター 03-3567-9990
CNプレイガイド 0570-08-9990
ローソンチケット 0570-000-407 (Lコード:36194)
e+(イープラス)
王子ホール
[マーク・パドモア&ポール・ルイス]~シューベルト三大歌曲集全曲演奏会 Ⅲ

シューベルト:歌曲集《白鳥の歌》D.957全曲 他 [好評発売中]
2014年12月7日(日)15:00 銀座・王子ホール
全席指定7,000円

主催|王子ホール
[チケットのお問合せ]王子ホールチケットセンター 03-3567-9990

■チケットの予約
王子ホールチケットセンター 03-3567-9990
CNプレイガイド 0570-08-9990
ローソンチケット 0570-000-407 (Lコード:36194)
e+(イープラス)
電気文化会館
マーク・パドモア(テノール) ポール・ルイス(ピアノ)

シューベルト:歌曲集《冬の旅》D.911全曲 [好評発売中]
2014年12月8日(月)19:00 名古屋・電気文化会館
全席指定7,000円 学生3,500円(学生券は電気文化会館チケットセンターのみ取扱い)

主催|電気文化会館
[チケットの問い合わせ]電気文化会館チケットセンター052-204-1133

■チケットの予約
電気文化会館チケットセンター 052-204-1133
チケットぴあ 0570-02-9999
愛知芸術文化センターPG 052-972-0430
ヤマハミュージックリテイリングPG 052-201-5152

 

プロフィール

PROFILE

マーク・パドモア

Photo : Marco Borggreve

マーク・パドモア(テノール)
Mark Padmore: tenor

 ロンドンで生まれカンタベリーで育つ。ケンブリッジ大学のキングス・カレッジ合唱奨学金を受け音楽で名誉ある学位を得て卒業。

 オペラ、コンサート、リサイタルで輝かしいキャリアを確立し、バッハの受難曲における歌唱は世界中から称賛されている。オペラではピーター・ブルック、 マーク・モリスといった演出家と仕事を共にしてきた。最近のハイライトは、2009年のハリソン・バートウィッスルの新作オペラ「The Corridor」の主役で、オールドバラ音楽祭とブレゲンツ音楽祭、ロンドンのサウスバンクセンターに出演。

 コンサートではウィーン・フィル、ベルリン・フィル、ニューヨーク・フィル、ロイヤル・コンセルトヘボウ管、ボストン響、ロンドン響等と共演。

 リサイタルもウィーン、アムステルダム、ミラノ、ニューヨーク、パリ等で実施。2008年5月、ロンドンのウィグモアホール初めてシューベルトの3大歌曲チクルスを行う。2011/2012シーズンのウィグモアホールのレジデント・アーティストを務め、ポール・ルイスとウィグモアホールでシューベルトの3大歌曲チクルスを再演する。ポール・ルイス、クリスチャン・ベザイデンホウト、ジュリアス・ドレイク、ロジャー・ヴィニョール等と定期的に共演している。

 録音も数多く、ヘルヴェッヘとバッハの受難曲を、ガーディナーとヘルヴェッヘでバッハのカンタータを録音。アンドリュー・マンゼ指揮ザ・イングリッシュ・コンソートとの共演でリリースされたヘンデルのアリア集「暁が夜に忍び込み」は、2008年BBCミュージック・マガジンのヴォーカル・アワード受賞。ポール・ルイスとシューベルトの「美しき水車屋の娘」「冬の旅」「白鳥の歌」を録音、その中で「冬の旅」は、2010年のグラモフォン・マガジンのヴォーカル・ソロ・アワードを受賞。クリスチャン・ベズイデンホウトとのシューマン「詩人の恋」の録音は、2011年エディソン・クラシック・アワードのヴォーカル賞を受賞。

 パドモアは、現在コンウォールのセント・エンデリオン夏音楽祭の芸術監督を努めている。

マーク・パドモア関連リンク

 

オフィシャル・ウェブサイトhttp://www.markpadmore.com/

ポール・ルイス

Photo : Josep Molina

ポール・ルイス(ピアノ)
Paul Lewis: piano

 この世代をリードする、国際的に名の知られたピアニストの一人。ロイヤル・フィルハーモニック協会のアーティスト・オブ・ザ・イヤー賞、サウスバンク・ショウのクラシック音楽賞、2年連続のエディソン賞(オランダ)、ドイツ・シャルプラッテン賞、そして2008年のレコード・オヴ・ザ・イヤーを含む3つのグラモフォン賞ほか数々の賞を受賞。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲、ピアノ協奏曲全曲およびディアベリ変奏曲を取り上げた演奏会シリーズとハルモニア・ムンディによる録音は世界中から称賛されており、その集大成として、2010年にはBBCプロムスにおいてベートーヴェンのピアノ協奏曲全5曲を一挙演奏した初のピアニストとなった。

 これまでにシュヴァルツェンベルクのシューベルティアーデなど各地の音楽祭や名門ホールから招かれ、ロンドンのウィグモアホールでは既に50回以上の演奏会を行っている。また、コリン・デイヴィス、ベルナルド・ハイティンク、ヴォルフガング・サヴァリッシュ、ダニエル・ハーディング、イジー・ビェロフラーヴェク、アンドリス・ネルソンスといった世界的な指揮者たちと共演。最近、そして今後の演奏会としては、ロンドン響との欧米ツアー、ロイヤル・コンセルトヘボウ管、シカゴ響、ボストン響、バイエルン放送響、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管等との共演、またマーラー室内管とのスペイン・ツアーなどがあり、ソロではロンドンのロイヤル・フェスティヴァル・ホール、ベルリン・フィルハーモニー、ウィーン・コンツェルトハウス、東京の王子ホール、シカゴのオーケストラ・ホール、アムステルダム・コンセルトヘボウ、チューリッヒ・トーンハレなどに登場している。

 2011年には、シューベルトがその生涯最後の6年間に作曲したピアノ作品全曲演奏を、2年にわたるプロジェクトとしてスタート。この演奏会は、ロンドン、ニューヨーク、シカゴ、東京、シュヴァルツェンベルクのシューベルティアーデなどの世界の主要会場で行われた。ハルモニア・ムンディでの最新録音は、ダニエル・ハーディング指揮スウェーデン放送管弦楽団とブラームスのピアノ協奏曲第1番を録音、発売が待たれている。

ポール・ルイス関連リンク

 

オフィシャル・ウェブサイトhttp://www.paullewispiano.co.uk/


 

チケット情報

TICKET INFORMATION

王子ホール
[マーク・パドモア&ポール・ルイス]〜シューベルト三大歌曲集全曲演奏会 Ⅰ
シューベルト:歌曲集《美しき水車屋の娘》op.25 D.795全曲[好評発売中]
2014年12月4日(木)19:00 銀座・王子ホール

全席指定7,000円

■チケットの予約
王子ホールチケットセンター:03-3567-9990
CNプレイガイド:0570-08-9990
ローソンチケット:0570-000-407 (Lコード:36194)
e+イープラス:(パソコン&ケータイ)

王子ホール
[マーク・パドモア&ポール・ルイス]〜シューベルト三大歌曲集全曲演奏会 Ⅱ
シューベルト:歌曲集《冬の旅》 op.89 D.911全曲
[完売]
2014年12月5日(金)19:00 銀座・王子ホール

全席指定7,000円

■チケットの予約
王子ホールチケットセンター:03-3567-9990
CNプレイガイド:0570-08-9990
ローソンチケット:0570-000-407 (Lコード:36194)
e+イープラス:(パソコン&ケータイ)

王子ホール
[マーク・パドモア&ポール・ルイス]〜シューベルト三大歌曲集全曲演奏会 Ⅲ
シューベルト:歌曲集《白鳥の歌》 D.957全曲 他
[好評発売中]
2014年12月7日(日)15:00 銀座・王子ホール

全席指定7,000円

■チケットの予約
王子ホールチケットセンター:03-3567-9990
CNプレイガイド:0570-08-9990
ローソンチケット:0570-000-407 (Lコード:36194)
e+イープラス:(パソコン&ケータイ)

電気文化会館
マーク・パドモア(テノール) ポール・ルイス(ピアノ)
シューベルト:歌曲集《冬の旅》 D.911全曲
[好評発売中]
2014年12月8日(月)15:00 名古屋・電気文化会館

全席指定 7,000円 学生3,500円(学生券は電気文化会館チケットセンターのみ取扱い)

■チケットの予約
電気文化会館チケットセンター:052-204-1133
チケットぴあ:0570-02-9999
愛知芸術文化センターPG:052-972-0430
ヤマハミュージックリテイリングPG:052-201-5152

 

メディア

MEDIA

■YouTube

■ディスコグラフィー

  • 《シューベルト:歌曲集「冬の旅」(全曲)D911》)
  • マーク・パドモア(テノール)
    ポール・ルイス(スタインウェイ・ピアノ)
    録音:2008年11、12月
    KKC.5398

  • 《シューベルト:「美しき水車小屋の娘」op.25 D 795》
  • マーク・パドモア(テノール) 
    ポール・ルイス(ピアノ/スタインウェイ) 
    録音:2009年9月

  • 《シューベルト:白鳥の歌D 957, 流れの上でD 943*, 星 D 939》
  • マーク・パドモア(テノール)
    ポール・ルイス(ピアノ) 
    *リチャード・ワトキンス(フレンチ・ホルン) 
    録音:2010年10月

 

エッセイ&インタビュー

ESSAY & INTERVIEW

■ エッセイ

パドモアとルイス、出会いを刻み込んだシューベルト

木幡一誠(音楽ライター)

Photo:Marco Borggreve courtesy of harmonia mundi usa
Photo:Marco Borggreve courtesy of harmonia mundi usa

 もう十数年は前になるのだけど、フィリップ・ヘレヴェッヘの率いる古楽団体がバッハの受難曲を集中して取り上げていたシーズンに、そのメンバーと話を交わす機会を得たことがある。多くのメンバーが口をそろえて絶賛していたのは、エヴァンゲリスト(福音史家)を受け持つマーク・パドモアの素晴らしさだった。「彼が歌うレチタティーヴォの美しく雄弁なフレージングは、我々にとっても指標となる」という、ある器楽奏者の言葉は忘れられませんね。
 その頃から現在に至るまで、パドモアが世を代表するエヴァンゲリスト歌手であることは論をまたない。最近の映像ソフトでいえば、サイモン・ラトル指揮のベルリン・フィルと共演したバッハの2つの受難曲がある。両作品にピーター・セラーズが施したセミ・ステージ版の演出は、特に「マタイ」において過激な“読み替え”を施しており、何と福音史家とイエス(こちらはクリスティアン・ゲアハーヘルが担当)を同一人物に見立てながら、お互いに自己注釈をつけ合うような形で受難の悲劇が進行していく。そこで入魂の歌唱を聴かせるパドモア。歌詞の意味を深く掘り下げたテクスト解釈と、ドラマティックでありながらも常に客観的な抑制の眼もきかせた演技者としての所作。それが奇跡的な同居を遂げた舞台姿が放つ、何という説得力!

 それが彼のシューベルトにも見事にオーバーラップして映る。思えばテノール歌手の歴史において、“偉大なるエヴァンゲリストにしてシューベルト解釈者”と評すべき人物の系譜が確実に存在する。劇的ではあっても歌劇的に陥ってしまわないアプローチとヴォーカル・テクニックや、優れた福音史家役には不可欠なドイツ語を扱う技量(それが母国語か否かを問わず)の賜物でもあろうが、たとえば往年の大家でいえばエルンスト・ヘフリガーやペーター・シュライヤー。現役のベテランならクリストフ・プレガルディエン……。そこに名を連ねる中でも、パドモアが「三大歌曲集」のCD録音に示した境地は格別の高みに達していると思う。「美しき水車小屋の娘」における恋路の展開も、「冬の旅」を一貫する荒涼とした心象風景も、「白鳥の歌」でパノラマ風に描き出される、“魂のさすらい人”が最後に極めた精神世界も、彼の歌唱にかかれば、ある種の陶酔感と覚醒感が表裏一体をなす叙情性が、作品に対峙する表現者としての“弧”を突き詰めた厳しさを伴いながら僕たちの耳に迫ってくる。もう、それは恐ろしいまでに甘美にして痛切なひととき。

 パートナーとしてポール・ルイスのピアノを得たことも功を奏した。恩師にあたる巨匠アルフレート・ブレンデルの衣鉢を継ぐ、当代きってのベートーヴェン弾きであり、シューベルト弾き。本質的には大変なテクニシャン。しかしそれを表に出さず、ピアニスティックな造形美が曲の核心部分をストレートにえぐる音楽として聴かせ通す。ちょうどパドモアとシューベルトのレコーディングに臨んでいた頃にインタビューする機会を得た際、ルイスはこう語ってくれた。 「同じ連作歌曲集でも、『美しき水車小屋の娘』は主人公と恋人をめぐるストーリーの流れがあります。それに対して『冬の旅』は第1曲で決定的な破局があり、続く曲はすべて主人公の心を写したポートレート。いわば旅先からの絵葉書みたいなもので、その孤独感がどんどん深まっていく。マークの見事な解釈に接するうち、こうした世界観の違いがピアノの書法にまで反映されていることも痛感しました。晩年にシューベルトが遺したソナタに匹敵する深みを感じます」
 特に「冬の旅」では、版元の勝手な措置で変更が加えられた若干の曲の調性を、自筆譜に戻した形で演奏している点も見逃せまい。シューベルトが意図した調性の連続性やコントラスト(第24曲「辻音楽師」の出だしはショッキングにすら響く!)を重視するのも、パドモアとルイスのコンビらしい姿勢だ。
 単なる歌手とピアニストのコラボレーションを超えた芸術家同士の出会いを刻み込んだシューベルト。その成果に実演で接する機会が、まもなくやってくる。楽しみでなりませんね。

絶望へと至るドラマ、
パドモアとルイスの《美しき水車屋の娘》

後藤菜穂子(音楽ライター:ロンドン在住)

Photo:Marco Borggreve courtesy of harmonia mundi usa
セント・メアリー・マグダレン教会外観

 英国を代表するリリック・テノールのマーク・パドモアは名手ポール・ルイスとすでに何年にもわたってコンビを組んできており、シューベルトの《三大歌曲集》のレコーディングも行っている。とはいえ、パドモアは日頃からいろんなピアニストと共演することで曲に対する解釈をつねに深めていくことを好む音楽家であり、今年6月のルイスとの《美しき水車屋の娘》はしばらくぶりの共演だったそうだ。良い意味で二人とも新鮮な気持ちで取り組めた、と演奏会のあとでパドモアは話してくれた。
 今回の公演は、ポール・ルイスが毎年ロンドン郊外のラティマーという村の教会で主催している音楽祭「Midsummer Music」のオープニングを飾るものであった。これはポールとチェリストである妻のビョークが、地元に根ざした活動をしたいという思いから、2009年より始めた音楽祭である。スケールは小さいが、国際的なアーティストたちを招き、ふだんのコンサートではできない多彩な編成によるプログラミングを組み、演奏家たちにとっても聴衆にとっても魅力的な音楽祭となっている。

Photo:Marco Borggreve courtesy of harmonia mundi usa
セント・メアリー・マグダレン教会内部

 会場のセント・メアリー・マグダレン教会は19世紀半ばに建てられたこじんまりした教会で、ゴシック・スタイルの塔が特色。夏は遅くまで自然の光が入って和やかな雰囲気を生み出し、天井が木張りなので音響も響きすぎずかなり良い。また演奏者たちは教会の後ろから身廊を通って登場するので、聴衆は音楽家たちを身近に感じることができる。

 

 公演ではプログラム後半に《美しい水車屋の娘》が置かれたが、前半の曲目も充実していた。第一曲目は、奇しくもノルウェー人のトリオとなったヘニング・クラッゲルード(vn)、ラルス=アンダース・トムター(va)、ビョーク・ルイス(vc)がベートーヴェンの若々しい弦楽三重奏曲Op.9-3を演奏し、続いて珍しい編成ゆえにめったに演奏されないシューベルトの「秘曲」といってもよい《水の上の精霊の歌Gesang der Geister der Wassern》D714が演奏された。これはゲーテの格調高い想像力豊かな詩を、男声8声とヴァイオリンを除いた弦楽合奏(ここでは各パート一人ずつ)という編成のために作曲したもので、荘厳かつ深みのある響きが特徴である。《美しい水車屋の娘》の2年前に書かれた作品だが、そのスピリチュアルな内容は後期の作風をすでに予感させる。指揮者は置かず、第1テノールを歌ったパドモアがリードを取りつつも、全員でお互いに息を合わせながらアンサンブルを作り上げるという親密な形で演奏された。この曲はシューベルトをライフワークとするルイスが以前から取り上げたいと思っていて、今回ようやく実現したのだそうだ。


Photo:Marco Borggreve courtesy of harmonia mundi usa
Photo:Marco Borggreve courtesy of harmonia mundi usa

 さて、後半はいよいよパドモアとルイスによる《美しき水車屋の娘》。シューベルトの三大歌曲集のうち、《美しき水車屋の娘》(1823年)がもっとも抒情性に富み、各曲とも旋律美にあふれていることは疑問のないところだろう。その意味で、つい親しみやすいメロディーに聞き惚れがちだが、パドモアとルイスのコンビによる演奏は、そうした個々の曲の抒情性を超え、巧みなストーリーテリングによって連作としての物語性をくっきりと浮き彫りにしたものであった。聴き手としても、若くて一途で傷つきやすい主人公の心に入り込み、彼の喜び、揺れ動く心、失恋から絶望へと至るドラマをともにした。
 とりわけパドモアの語り口は時に俳優のようでもあり、やはりシェイクスピアの国の歌手らしいアプローチだと感じた。いわゆるドイツの正統的なリート解釈とは異なるかもしれないが、アプローチの違いこそあれ、シューベルトの音楽の核心に迫る名演であった。

 

 実はパドモアが2008年に初めてウィグモア・ホールで、シューベルトの三大歌曲集をチクルスとして歌った時の《美しき水車屋の娘》を覚えているが(ピアノはティル・フェルナー)、その時は感情表現に力が入ると声を張り上げすぎる傾向があったのを覚えている。しかしそれから6年、先日インタビューでも「今の自分は表現したいことを実現するための声の技術は身に付いたと思うので、むしろいかに声のことを気にしないで、言葉を表現できるかを追求していきたい」と語っていたとおり、今の彼の声はより高音に伸びがあり、声に負担をかけずにあらゆる言葉の陰影を表現する技術を持っている(それはこの夏のベルリン・フィルとの《マタイ受難曲》のエヴァンゲリスト役でも顕著であった)。

Photo:Marco Borggreve courtesy of harmonia mundi usa
Photo:Marco Borggreve courtesy of harmonia mundi usa

 今回の彼の《美しき水車屋の娘》で特に印象に残ったのは、各曲の絶妙なペーシングによって、主人公の心情の変化が巧みにとらえられていたことである。最初の5曲は屈託なく明るく進むが、特に音楽の中に初めて恋への疑念が芽生える第6曲「知りたがる男」から、主人公の情熱の絶頂である第11曲「僕のものだ!」にいたる揺れ動く心が見事に表現された。その中でも、第8曲の「朝の挨拶」の有節形式のシンプルさがいつまでも心に残った。第12曲以降、青年は絶望の一途をたどるが、終曲の「小川の子守歌」では、パドモアは小川になりきって、慈愛に満ちた弔いの歌を聴かせた。
 ポール・ルイスのピアノはきわめて自然体な演奏で、終始パドモアの歌唱に寄り添うものであった。ことさら目立った主張をすることはないが、実際にはその繊細なピアニズムによってパドモアの一つ一つのフレージングに瞬時に反応し、またシューベルトの揺れ動く和声をとらえて主人公の心理に奥行きを与えた。そこにはルイスのシューベルトの語法に対する深い造詣が感じられた。
 夏のロンドンから半年を経て、冬の東京で再び共に舞台に立つ二人。王子ホールというリート演奏に最適な親密な空間で二人がどんな解釈を繰り広げてくれるか、期待が高まる。

 

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