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新時代のクラシック・ギター界のスター
ティボー・ガルシア 日本デビュー公演
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2019年日本ツアー公演プログラム
プログラム
PROFILE
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スペイン系フランスのギタリスト、ティボー・ガルシアは1994年トゥールーズ生まれ、7歳でギターを学び始める。ポール・フェレットのクラスでギター賞を受賞。若干16歳でパリ国立高等音楽院に入学を許可され、オリヴィエ・シャサンに師事して研鑽を積み、また同時期にジョディカエル・ペロワの指導を受ける。2015年、シャルル・クロス・アカデミーの『Godchild(名付け子)』の栄誉を受ける。
16歳でドイツ・ワイマールのアナ・アマリア・国際ギター・コンクールで優勝。それ以来いくつもの国際コンクールで優勝、特に2015年合衆国オクラホマ市のGFA国際コンコール、2014年スペインのホセ・トーマス国際コンクール、2013年スペインのセヴィリャ国際コンクールで優勝し、以後これらのコンクールの審査員とマスタークラスを受け持つようになる。
オーストラリア、カナダ、スペイン、フィンランド、スイス、ベルギー、ドイツ、フランス、イタリア、モンテネグロ、チリ、ニューカレドニア、合衆国、ブラジル、アルゼンチン、メキシコ、ルーマニアで開催されている世界的に著名なギターフェスティヴァルに数多く招待されており、また2016年9月より合衆国とカナダにツアーを行い、このシーズンで全60回以上のリサイタルを行う。さらに、ラジオ・フランス&オクシタニー・モンペリエ・フェスティヴァル、トゥールーズ・ド・エテ・フェスティヴァル、ボルドー・オーディトリアム、ウィーンのコンツェルトハウス、アムステルダムのコンセルトヘボー、モスクワのチャイコフスキー・ホール、モントリオールのサル・ブルジー、パリ室内楽センターのサル・コルトー、オルセー美術館のオーディトリアム等で演奏している。
2016年トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団との共演でコンチェルト・デビュー、この後バーデン・バーデン管弦楽団、モンペリエ国立管弦楽団、カンヌPACA管弦楽団、ブルゴーニュ地方管弦楽団、BBC交響楽団と共演する。
2017年、ロンドンのBBCニュージェネレーション・アーティストに指名され、これによりイギリスで数多くのリサイタルと協奏曲の演奏の機会に繋がり、とりわけ2018年10月には、ロンドンのウィグモアホールにデビューする。
室内楽では、エドガー・モロー、ラファエル・セヴェール、ジャン・フレデリック・ヌーブルジェ、アントワーヌ・モルニエーレ、ボリス・グルリエール、アナイス・コンスタン、ラ・マルカ兄弟、キャスリン・ラッジ等と共演。2016年ワーナー・クラシック/エラートと録音の専属契約を結び、ファースト・アルバム「レイエンダ」をリリース、また2018年秋にセカンド・アルバム「J.S.バッハ讃」をリリース。
ティボー・ガルシア関連リンク
オフィシャル・ウェブサイト :http://www.thibautgarcia-guitarist.com/
WARNER MUSIC JAPAN :https://wmg.jp/thibautgarcia/
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ESSAY & INTERVIEW
■ エッセイ
モスクワのティボー・ガルシア、そしてプレスティ奏法とは
福田進一(ギタリスト)
写真提供:福田進一
ティボー・ガルシアと福田進一氏
去る3月20日から24日、モスクワのチャイコフスキー・ホールを舞台に第14回国際ギターフェスティバル「モスクワ・ヴィルトゥオージ」が開催された。私はそこに、巨匠ぺぺ・ロメロを含む4人のコンチェルト・ソリストのひとりとして招かれ、スヴェトラーノフ国立管弦楽団との共演という栄誉を賜ったのだが、何よりの収穫はかねがね次世代の若いギタリストの中で最も抜きん出た才能と評価しているティボー・ガルシアと同じステージに立ち、さらに親しくなったことだった。
ティボーは、スラリとした、未だ少年の雰囲気が残る清々しい24歳の若者だが、モスクワ・デビューで彼が選んだ協奏曲は、イタリア古典期の作曲家、フェルディナンド・カルリの協奏曲ホ短調。余程のギター通でもその存在を知っている人は少ないであろう、なんとも地味な選曲。
しかし、モスクワ音楽院ホールで行われた初日のリハーサルから、ティボーは周囲の空気を一転させる素晴らしい集中力で、このコンチェルトを優雅に、なんの気負いも、衒いもなく、あたかもモーツァルトのピアノ協奏曲のギター版であるかのような錯覚を与え奏でた。
彼の天分とも言える、その粒だった滑らかなアルペジオ、音階の連鎖は、独特の右指の弾弦法、プレスティ奏法から生まれる。専門的な説明になるが、通常のギター奏法、弦をはじく時の右人差し指、中指、薬指のタッチは、先ず親指側の爪先が接触する。しかし、1950年代後半からフランスのギター界を牽引した不世出の天才イダ・プレスティ(1924-1967)は右手首を急角度に曲げ、小指側で弾く独自の奏法を用いた。この奏法は後に夭折した彼女の意志を継ぎ、パリ音楽院の初代ギター科教授となった夫のアレキサンダー・ラゴヤに引き継がれ、さらにその門下生たちに広まった。だが依然、世界的な視野から言うとフランスとカナダのフランス語圏でのみ知られる、特殊な奏法と言えるだろう。少なくとも、日本にはこれまで正しい形で導入されていない、未知のギター奏法と言って間違いない。
写真提供:福田進一
チャイコフスキー・ホールのティボー・ガルシア
話題のティボー・ガルシアは、ギターを始めた最初からこの奏法で学んでおり、彼にとってはそれが普通。「生まれたトゥールーズから外に出て、一般のギター奏法を見た時には愕然としましたよ!」と笑う。その笑顔は万人を惹きつける天真爛漫な性格、そして確固たる音楽家としての自信に溢れている。
私は、日本公演とほぼ同じ内容のモスクワでのソロ・プログラムも聴いたのだが、ここでは多くを語るまい。絶賛の声が多く聞こえる2枚のアルバムは、既に国際的な評価を得ている。
是非、皆さんの目と耳で確認して頂きたい。
「クラシック・ギター」の更新~ティボー・ガルシアの来日公演に寄せて
矢澤孝樹(音楽評論)
©Marco Borggreve
クラシック・ギターが、自分自身を思い出す。
ティボー・ガルシアのギターを聴いていると、そんな言葉がつい頭に浮かぶ。
私は「クラシック・ギターにとことん向き合ってきた」とまではとても言えない、だがこの楽器の音楽には十分に惹かれる平均的な聴き手のひとりだが、その私からしても、この20年くらい、クラシック・ギターのイノヴェーションは驚くべきものがあったと感じる。ジャズ、ロック、あるいはワールド・ミュージック系の音楽家の作品、あるいはそれらにインスパイアされた作品が頻繁に取り上げられ、演奏自体もよりエッジの効いた、シャープでソリッドな方向へと研ぎ澄まされていった。クラシック・ギターはいわば「クラシック側のボーダレス大使」の役割を果たしていたような印象すらある。
それはもちろん興奮と共に歓迎すべき状況だったし、今もこの方向は深化し続けている。そもそもルネサンスやバロック時代から、クラシック・ギターの先祖はいわば「ストリート」の主役だったのだから、何ら不自然ではない。
だが一方で、19世紀後半から顕著になったスペインの音楽家たちによる創作の流れと並行して磨かれ、洗練されていったクラシック・ギターの顔もある。ティボー・ガルシアの演奏からは、最近少し忘れかけていたその顔が、洗練と気品を伴い蘇ってくるのを感じる。一音一音が丸みを帯びて粒立ちよく、連なって奏でられる旋律は奥深い陰影と余韻を残す。まだ20代の若さにも関わらず、この落ち着いた音楽の佇まいはどうだろう。もう少しで「往年の巨匠のような…」という言葉を呟いてしまいそうになるが、それを踏みとどまらせるのは技巧的な作品で聴かせる驚異的な精度と迫力であり、新しいクラシック・ギターの潮流を十分に自らのものにしつつ、かつての「黄金時代」を21世紀にアップデートしてゆこうという意志が伝わってくるのだ。
今回の来日公演では、ティボー・ガルシアがエラート・レーベルに録音した2枚のアルバム(国内盤もある)、『レイエンダ~伝説のギター』と『バッハに捧げる』収録曲目を中心に選ばれている。前者はいわば「名刺代わり」とも言えるスペインおよび中南米のギター音楽の名品たちであり、先に述べたガルシアの特色を存分に味わえるだろう。後者はバッハとその影響を受けたギター音楽を集めた注目の内容であり、収録曲のタンスマンの《5つのインヴェンションとパッサカイユ》のようにガルシアが蘇らせたといっても良い隠れた傑作が公演プログラムに含まれているのが喜ばしい。もちろん、直接的にはギターのために書かれたのではないバッハ作品たちも、あの《シャコンヌ》をはじめみごとに「ギター音楽」として鳴り響くはずだ。そして、バッハを愛しギターでその紹介に努めたバリオス=マンゴレの《大聖堂》は、いわば2枚のアルバムをつなぐ架け橋であり、これも聴きのがせない。2枚のアルバムに収録されていないリョベートの作品が聴けるのも楽しみだ。
若き貴公子と共に蘇るクラシック・ギター。コンサートは懐古趣味とは無縁の、その新しい一歩を目撃するひと時となるはずだ。
心の奥深く浸透してくるティボー・ガルシアのギターの調べ
伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)
©Marco Borggreve
最近、心に響くすばらしいギターを奏でるアーティストの録音に出会った。スペイン系フランス人のティボー・ガルシアのデビュー・アルバムである。私は長年ギターを愛し、さらにスペインが大好き。毎日というほどこのCDを聴き込み、すっかりその響きに魅了されてしまった。
録音当時、ガルシアは22歳。21歳までに各地の国際コンクールを6度も受け、すべて優勝という快挙を成し遂げた逸材である。そして2015年、現在のギター・コンクールの最高峰と称されるアメリカのGFA国際ギター・コンクールで第1位を獲得し、これを機にカーネギー・ホールで演奏したり、録音を開始するなど、本格的な活動をスタートさせる。
私が聴いているのはエラート・レーベル専属契約の第1弾で、ラテン・ギターの伝統的な作品がぎっしり詰まった「レイエンダ―伝説のギター」(ワーナー)。ここに聴くガルシアの演奏は、繊細かつパッションにあふれ、豊かな歌心が全編を彩っている。アルバムにはアルベニス、ファリャ、ロドリーゴ、タレガというスペインの作曲家の有名な作品が選ばれ、さらにピアソラの曲も含まれ、ガルシアがライナーノーツに綴っているように、彼の人生、旅、スペイン系ルーツを思い出させる選曲となっている。
なかでも印象的なのは、スペインに生まれ、アルゼンチンで亡くなったアントニオ・ヒメネス・マンホーン(1866~1919)の「バスクの歌」が収録されていること。これはガルシアが得意としている曲で、コンクールでも演奏し、手の内に入った自然体の演奏が展開されている。ふだんあまり耳にする機会のない曲だが、バスク地方特有のリズム、哀愁と情熱に富む旋律がまっすぐに心に響いてきて、深い感動をもたらす。
そんなガルシアが6月に待望の初来日を果たすが、プログラムには「レイエンダ」のなかからアルベニス「アストゥーリアス」、タレガ「アルハンブラの思い出」、ピアソラ(アサド編)「ブエノスアイレスの四季」が組まれている。ガルシアの「アストゥーリアス」は、南スペインの民俗音楽、フラメンコのギターを連想させる情熱と神秘性に満ちた演奏。切々と語りかけるような「アルハンブラの思い出」は、聴き手をグラナダへと一気にいざなう旅心を刺激する奏法である。さらに「ブエノスアイレスの四季」もまた、聴き込むほどにかの地へと運ばれていくよう。
いずれの作品もガルシアの才能の萌芽が存分に発揮され、底力を示唆する演奏で、何度も聴きたくなる一種の魔力を放っている。ギターはもちろん間近にナマの音を聴くことで醍醐味が味わえる楽器。初来日のステージでは、どんな響きを生み出し、ギターの奥深さを体感させてくれるのだろうか。ガルシアの演奏は、ひとつひとつの音があるべき姿でそこに存在するという必然性に富む。その響きを全身にまとい、至福の時間を堪能したい。